撤退の農村計画 > 記事 : 林直樹・齋藤晋(2011):岩手県・宮城県・福島県の将来推計人口:復興はコンパクトな「まち」で.電力中央研究所社会経済研究所ディスカッションペーパー,SERC11023.
  • 林直樹・齋藤晋(2011):岩手県・宮城県・福島県の将来推計人口:復興はコンパクトな「まち」で.電力中央研究所社会経済研究所ディスカッションペーパー,SERC11023.

    本稿は、(財)電力中央研究所の許諾を得て転載しています。全文は、以下よりダウンロードできます。ぜひご利用ください。

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    1 はじめに

    2011年6月25日,東日本大震災復興構想会議は,復興にむけての本格的な指針である「復興への提言〜悲惨のなかの希望〜」を提示した。抽象的な議論が多いこともあって,宅地などの高台移転が,ひときわ目立っていた。にもかかわらず,7月29日に決定された「東日本大震災からの復興の基本方針」(東日本大震災復興対策本部)には,「高台移転」が明記されなかった。明記されなかっただけとはいえ,高台移転がトーンダウンしたことは間違いない。

    生活を再建するための集団移転の場合,基本的には,山あいから平らな場所に下りる*1。高台移転は,方向性としては,その逆である点に留意すべきである。例えば,1963年の災害ののち,高台に移転した漁村(北檜山町鵜泊)の場合,急病に対する不安が高まり,買い物も不便になったという*2。つまり,移転先は時間をかけて,慎重に検討しなければならない。急進的な高台移転を避けるという点では,「トーンダウン」は,むしろ歓迎すべきことかもしれない。

    高台移転がトーンダウンしたことにより,以前と比較すれば,もとの地域で,まち・むらを再建する可能性が高くなった。一方,女川町のように,高台移転について,すでに活発な議論が進んでいるところもあるが,基本的な方向性は,あくまですぐそばへの移転に傾きつつある*3。つまり,広域的にみれば,もとの地域で再建することと大差はない。

    さて,前述の「東日本大震災からの復興の基本方針」には,高齢化や人口減少に対応することが明記された。まちづくりにおける「高齢化や人口減少への対応」は,今やお題目ともなっているが,本来は非常に深刻な課題である(本稿で示す将来推計人口を見れば理解していただけると確信している)。下手をすると,「30年後に残ったものは,立派な防潮堤と空き家だけであった」となる危険もある。

    では,もとの地域で,まち・むらを再建するとして,高齢化率や人口は,長期的にどのように変化するのか。ここでは,「大震災がなかったら」と仮定して*4,岩手県・宮城県・福島県の将来推計人口を求め,復興についての若干の考察を加える。

    2 将来推計人口の計算方法*5

    (1) 2次グリッドの人口推計の概要

    それぞれの県について,2000年と2005年の2次グリッド(約10km四方)単位の人口*6から,2040年の将来推計人口を求める。コーホート変化率法を使用する(表1参照)。

    表1
    ↑表1

    性・年齢別のコーホート変化率,2005年の婦人子ども比,子ども性比(1.048:2005年の全国の値,国勢調査)は,このまま変化しないと仮定する。最終的には2次グリッドごとに,総人口と65歳以上人口を求める(2005年と2040年)。性・年齢別のコーホート変化率や,婦人子ども比の細かな計算方法については,(2)で説明する。

    (2) 変化率・婦人子ども比の計算

    人口が少ない場合,性・年齢別のコーホート変化率(期末÷期首)や,婦人子ども比(子ども÷婦人)が計算できないことがある。そして,計算できても極端な値(外れ値)をとることが多い。これらを考慮して,次の方法で変化率と婦人子ども比を求める。

    コーホート変化率: (あ)「計算不能(期首が0人)」は無視して(欠損値として),変化率を計算する。(い)それぞれの変化率について,中央値,外れ値の上限(75%点+1.5×(75%点−25%点)),外れ値の下限(25%点−1.5×(75%点−25%点))を求める。(う)期首・期末ともに0人の「計算不能」は中央値に,期首のみ0人の「計算不能」は外れ値の上限に*7置き換える。(え)外れ値の上限を上回るものは「上限」に,外れ値の下限を下回るものは「下限」に置き換える。

    婦人子ども比: 2005年の婦人子ども比を求める。女子15〜49歳を「婦人」とする。計算不能(婦人が0人),外れ値への対処は,コーホート変化率の場合と同様とする。

    (3) 3次グリッドの人口推計

    3次グリッド(約1km四方)単位の性・年齢別の人口は,秘匿が非常に多いため,前述のような人口推計は難しい。3次グリッドの人口(総人口と65歳以上人口)は,次の方法で求める。(あ)それぞれの2次グリッドについて,3次グリッドの2005年の総人口(これには秘匿がない)の「構成比」を求める。(い)2次グリッド単位の総人口(65歳以上人口)を3次グリッドに分配する。その際の構成比は(あ)の「構成比」と同じとする。

    3 人口推計の結果

    図1は,2次グリッド単位の高齢化率(65歳以上人口÷総人口)である。被災地かどうかにかかわらず,2005年から2040年の間にも,高齢化はかなり進み,「高齢化率50%以上のグリッド(図中の赤)」が激増することがわかる(2005年は11グリッド,2040年は131グリッド)。

    図1
    ↑図1

    図2は,3次グリッド単位の人口密度である。人口密度を求める際,3次グリッドの面積は,すべて1km2とみなした。「海の面積(国土数値情報・平成18年土地利用メッシュ)」は除外した。この図から,全域で人口密度が低くなることがわかる。

    図2
    ↑図2

    海岸線を含む3次グリッドを海岸部*8として,総人口と65歳以上人口,そして高齢化率,人口増加率を求めたものが表2である。参考のために県全域の値も併記した。いずれの県についても,海岸部の高齢化率は,県全域の値よりも高く,人口増加率は低い(人口減少が激しい)。3県全体でみると,全域の高齢化率は22.1%から35.7%に上昇するが,海岸部は26.1%から42.3%に上昇する。また,全域の人口は5,836,578人から,4,360,192人に減少するが(-25.3%),海岸部は,222,671人から120,897人に減少する(-45.7%)。

    表2
    ↑表2

    4 復興はコンパクトな「まち」で

    この先,いずれの県も,全域で高齢化と人口減少がかなり進む。なかでも海岸部は特に激しいことがわかった。しかも,これには「大震災がなかったら」という仮定がある。つまり,現実はこれよりはるかに厳しくなるであろう。

    冒頭で「30年後に残ったものは,立派な防潮堤と空き家だけであった」となる危険もあると述べた。このようなことは,3県の全域,おそらくは全国にもあてはまることであろうが,海岸部における危険の度合いは特に高い。よって,「東日本大震災からの復興の基本方針」にもあるように,コンパクトな(集約された)「まち(むら)」を目指すべきであろう。その点に関していえば,女川町が集約化を断念したこと*3は残念といわざるをえない。

    コンパクトなまちをつくるためには,集団移転が不可欠ある。高台移転がトーンダウンしたとはいえ,集団移転そのものが不要になったということではない。前稿*9で示したように,全体的にみれば,集団移転は高い評価を受けている。

    しかし,コンパクト化(集約化)については,いまだ雲をつかむような話である。まずもって,コンパクトにすべき圏域のサイズすら共有されていない。いわゆる「コンパクトシティー」の場合,それは市街地全体であるが*10,以前の女川町の計画*11のように,数集落ということもある。いずれにしても,辺縁部にあたる人の立場で考えれば,圏域は小さいほうが望ましい(移転の距離が短くなるので)。

    ひとつの方向性として,住民が許容できる「移転先までの距離」から,圏域を考えるという手はどうであろうか。例えば,住民の多くが「もとの場所から移転先までは10km以内」と希望するなら,圏域のサイズを半径10km程度にする―ということである。なお,前稿*9で紹介した新潟県小千谷市十二平集落の集団移転の場合,移転先までの距離は,道路距離で14km,直線距離で9kmである。

    漁業者は海岸部から離れることを嫌う傾向が強いが,この点について,興味深い報告がある。住居と港・船着き場が離れることによる不都合の第1位は「緊急連絡」で,不都合を感じない(許容できる)の距離は,徒歩で平均9.5分,車で平均5.6分であるという(調査は1995年)*2。この場合,「移転先までの距離」は,車を使うとして約3kmである。ところで,1995年といえば携帯電話もあまり普及していなかった*12。現在であれば,「緊急連絡」の壁は,かなり低いのではないか。そうなると許容できる距離がもう少し長くなる可能性もある。

    一方,早いもの勝ち式の漁業が,漁業者を海岸部にはりつけているという意見もある*13。漁業の仕組みを変えるためには,非常に長い年月がかかると思われる。ただし,インターネットが普及した現在であれば,海の状況をリアルタイムで遠隔地に伝えることは別に難しいことではない。許容できる距離を長くするためのくふうの余地はいくらでもある。

    中心部の人口にも留意しなければならない。図1図2を思い出していただきたい。海岸部でなくとも,この先,高齢化や人口減少はかなり進行する。中心部は,何十年か先であっても,ある程度の人口(しかも生産年齢人口)が残っている場所でなければならない。

    5 おわりに

    本稿で明らかにしたことは次の2点である。(あ)岩手県,宮城県,福島県の全域で,高齢化と人口減少がかなり進行する(図1図2)。(い)県全域と比較して,海岸部の高齢化は高く,人口減少も激しい(表2)。そして,(い)の結果から,海岸部の復興については,コンパクトな「まち」を目指すべきと主張した。また,それに関連して,コンパクト化の圏域のサイズについて少し触れた。次稿では,これらの結果を盛り込んだ「広域計画」の青写真を提供したいと考えている。

    謝辞: 阿部長商店・取締役会長の阿部𣳾兒氏,横浜国立大学の松田裕之教授,共同研究会「撤退の農村計画」のメンバーから多大なる協力・助言を得た。記して深くお礼申し上げるしだいである。本研究の一部は環境省の環境研究総合推進費(E-0902)の支援により実施された。

    (注)

    *1 例えば,鹿児島県阿久根市本之牟礼地区,秋田県湯沢市雨外地区,長野県松本市中北山地区の集落移転など。

    *2 千葉忠弘「漁村における居住地再編に関する基礎的研究(その1 住民意識と北檜山町集落移転事例)」『日本建築学会北海道支部研究報告集』No.68,429-432,1995

    *3 「漁村の集約化断念 集落ごと高台移転 宮城・女川」河北新報,2011年8月11日

    *4 死者・行方不明者は,2万人をこえているが,住んでいた場所がわからないため,人口推計に反映させることは非常に困難。

    *5 石川晃『市町村人口推計マニュアル』古今書院,1993

    *6 (あ)国勢調査,日本測地系。(い)総人口がきわめて少ない場合,性・年齢別の人口は秘匿になっている(近隣のグリッドに加えられている)。そのようなグリッドは0人とみなす。(う)2005年に0人のグリッドは,「2次グリッドの人口推計」の対象から外す。

    *7 期首の人口が0人に近づくと,変化率は非常に大きな値となる。ここでは「外れ値の上限まで引き下げる」と考える。

    *8 海岸線とグリッドの境界線には何の関係もない。そのため,なかには,ほとんどが陸(あるいは海)というグリッドもある。全体的にみれば,海岸部のグリッドにおける陸の割合は46%である。もしも,島がなく,海岸部のグリッドがすべて下の図のようになっているとすれば,海岸線から約460mまでの陸を見ていることになる。

    注8の図
    ↑注8の図

    *9 林直樹・齋藤晋・朝野賢司・杉山大志「震災後集団移転の成功要因:新潟県小千谷市十二平の経験に学ぶ」『(財)電力中央研究所社会経済研究所ディスカッションペーパー:SERC11013』2011

    *10 たとえば次の資料。国土交通省東北地方整備局企画部広域計画課『東北発コンパクトシティのすすめ』

    *11 女川町復興計画策定委員会(第4回委員会・平成23年7月29日開催)『復興基本計画図(素案)』2011

    *12 1995年の携帯電話(PHSを含む)の普及率はわずか9.4%であった。情報統計通信データベース(総務省)より。

    *13 阿部町商店・阿部𣳾兒氏の意見(2011年5月)。





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