撤退の農村計画 > 記事 : 林直樹(2012):過疎集落の移転を考える―「皆でまとまって引っ越す」という選択肢.トイロビジネス,157,8-9.
  • 林直樹(2012):過疎集落の移転を考える―「皆でまとまって引っ越す」という選択肢.トイロビジネス,157,8-9.

    必ずお読みください。

    共同研究会「撤退の農村計画」では、熊本大学の学術レポジトリにならって、原則として、全文を公開しています。これは著者最終稿をもとにしたものであり、その後の発行者・出版者側のレイアウト調整・誤字脱字調整、著者の校正は入っていません。

    厳しくないようで厳しい過疎集落の現状

    山あいの緑豊かな小さな集落に注目していただきたい。住民の多くは高齢者である。付近に商店や病院はなく,バスも走っていない。ただし,そこに住んでいる人々は,特段不便とは感じていない。この点については都会の感覚で判断すべきではない。

    しかし,「自家用車(家族が運転するものを含む)が利用できない」,「通院の頻度が高い」の二つが重なると,高齢者は市街地の施設や都市の息子・娘の家に向かうことが多い。地縁が切れることで,残ったほうも,出て行ったほうもさびしくなる。出て行ったほうは農作業の楽しみ(生きがい)を失う可能性も高い。そのほか,寄る辺のない高齢者が置き去りにされる可能性もある。むろん,これは過疎集落の現状の一例であるが,決して珍しいものでもない。

    「皆でまとまって引っ越す(集落移転)」という選択肢

    今の場所で生活できるように支援することが最善の策であるが,それにも限界がある。わたしは「皆でまとまって,もう少し便利なところに引っ越す(集落移転)」という選択肢があってもよいと考えている。集落移転には,「ダム建設」,「防災」,「生活再建」の3種類があるが,この場で紹介するものは「生活再建」型である。むろん,集落全員の合意に基づくものであり,強制ではない。

    過激な手法に見えるかもしれないが,集落移転は1970年代に多数実施された。実際に移転した人も高く評価している。総務省の調査*1によると,「移転してよかった」と回答した人は81.8%,「移転前のほうがよかった」は,わずか2.3%であった。なお,最も評価された点は「病院や福祉施設が近くなり,医療や福祉サービスが受けやすくなった」であった(同調査)。

    具体例をひとつ紹介したい。1989年,鹿児島県阿久根市本之牟礼地区の7戸が市役所の近く(倉津団地)に集団で移転した(過疎地域集落再編整備事業)。2008年,筆者は移転先の倉津団地を訪問した(写真1)。集落移転については,「今振り返ってみると,若かったから(もとの場所で)がんばることができたのであり,連れてきてもらってよかった」,「以前からの仲間がいるから心強い」と高く評価されていた。なお,一つ目の感想は,移転後しばらくしてから,効果を実感する人がいることを示唆している。

    図1
    ↑図1:鹿児島県阿久根市倉津団地

    最大の課題は住民の負担軽減

    経済的な負担

    国からの経済的な支援もあるが,移転時の住民の負担(費用)はゼロではない。前述の調査によると,「移転にかかる個人の費用負担や支出が大きかった」という不満が多かった(MAで36.4%)。経済的な負担軽減は集落移転の大きな課題である。移転先の住宅は,戸建て・持ち家が基本であるが,経済的な余裕のない人のために,公営住宅といった選択肢も準備すべきであろう。

    意思決定の負担

    集落移転については,住民が納得して移転することが肝要である。ただし,意見をまとめることは決して容易ではない。前述の調査によると,「集落内で住民の意見をまとめるのが大変であった」という不満も多かった(MAで26.1%)。集落移転の意思決定については,リーダーの力が大きいが,関連情報の収集や話し合いの場づくりなど,外部の支援者ができることも少なくない。なお,外部の支援者には移転後のサポート,例えば,住民どうしの交流の支援などでも活躍していただきたい。

    より満足度の高い集落移転を目指して

    家庭菜園の整備

    農作業は農村の高齢者にとって楽しみ(生きがい)でもある。移転先にも家庭菜園を整備すべきである。ただし,あくまで家庭菜園であって,広大である必要はない。

    跡地の管理

    農村の住民は,離村の際,「故郷を捨てた」という罪悪感にさいなまれることがあるといわれる。都市の感覚とは大きく異なる。そのような罪悪感を緩和するためにも,無理のない範囲で跡地は美しく管理すべきであろう。写真2は,中越大震災をきっかけに集団で移転した新潟県小千谷市十二平地区の跡地である。雰囲気は明るく,どちらかといえば公園に近い。なお,なりゆきまかせの場合は,無残な廃屋などによって暗い雰囲気になることが多い。

    写真2
    ↑写真2:新潟県小千谷市十二平地区(跡地)

    跡地の水田

    放棄された跡地の水田は,長い時間をかけて天然林に戻る。天然林に戻ること自体は,特段わるいことではないが,水田としての潜在力を残したい場合は,草地として維持することを推奨する。放牧であれば,作業時間は人力除草の約9分の1であり,畜産所得も期待できる(モデルケースでは15万m2で1,342千円)*2

    なお,ヒノキの人工林を放棄すると,場所によっては表土が流出する危険が高まるといわれている。そのような場所がある場合は,広葉樹を導入して,表土の流出を防止する必要がある。

    国全体の人口が減少する時代

    この先は,国全体の人口が減少して,国から地方への手厚い支援も不可能になる。まだ余力のある今こそ,集落移転を検討するときであろう。「前進」だけが農村整備ではない。この先は,「少し引いて確実に守る」という発想も必要である。なお,集落移転は,高齢化したニュータウンの再建などでも活躍する可能性がある。

    *1 総務省自治行政局過疎対策室『過疎地域等における集落再編成の新たなあり方に関する調査報告書』2001
    *2 千田雅之『里地放牧を基軸にした中山間地域の肉用牛繁殖経営の改善と農地資源管理』農林統計協会,2005





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