撤退の農村計画 > 記事 : 林直樹(2012):撤退の農村計画:思考のフレームワークと集落移転(日本建築学会,『縮退のパブリックデザイン』).pp.9-10.(2012年度日本建築学会大会(東海)パネルディスカッション資料)
  • 林直樹(2012):撤退の農村計画:思考のフレームワークと集落移転(日本建築学会,『縮退のパブリックデザイン』).pp.9-10.(2012年度日本建築学会大会(東海)パネルディスカッション資料)

    必ずお読みください。

    共同研究会「撤退の農村計画」では、熊本大学の学術レポジトリにならって、原則として、全文を公開しています。これは著者最終稿をもとにしたものであり、その後の発行者・出版者側のレイアウト調整・誤字脱字調整、著者の校正は入っていません。

    スライド1スライド2スライド3スライド4

    ↑スライド(クリックすると大きくなります。講演で使用されたものは、見出しが青いスライドだけです)

    ↓以下、本文。

    1.ねらい

    第一に、「国全体の人口が減少する時代」の長期的な国土利用再編の考え方、第二に、国土利用再編の戦術のひとつである「集落移転」について説明する。第一の「考え方」は、あくまで私案である。構築だけでなく、「撤退」にも光をあてて、本物の再構築論を深めたい。なお、今回の発表は農村計画が中心であるが、都市計画に通じるところも多いはずである。

    2.長期的な国土利用再編の十七条憲法(私案)

    (1)目標の設定に向けて

    (1) 国全体の人口の減少から目を背けない。
    (2) 危機をあおらない。
    (3) 国土利用の効率を否定しない。
    (4) 中心地へのインフラの集約を考える場合も、「辺地」から目を背けない。
    (5) 迷ったら、次世代の「選択肢」を減らさないことを考える。
    (6) 世界的な激変に対する「保険」として、貿易の多様性だけでなく、国土利用の技術の多様性を確保することも考える。
    (7) 望ましいとされる状態が維持できない場合は、なるべく手間やお金をかけずに、「潜在力」を温存することを考える。

    (2)目標に近づくために

    (8) 自然の回復力と人間の適応性の両方を信じる。
    (9) 不確実性が高いときは、目標に向けて、少しずつ変化させることを考える。
    (10) 現状を精査する前に、目標とする姿を確認して、着眼点を絞り込む。
    (11) 手段を設計するときは、目標と現状を何度も確認して、実現できるかを問う。
    (12) 職人芸に頼りすぎない。

    (3)意思決定に向けて

    (13) 「何か望ましいか」は当事者が決めるということを肝に銘じる。
    (14) 未来のことは未来の国民が決める。
    (15) 個々人の誇りを重んじる。
    (16) 当事者が納得して選択できる環境をつくることを考える。
    (17) 長期的・広域的な視点で作成された「複数の青写真」を提供する。

    (4)補足説明

    (4)と(7)について補足説明を加える。「中心地を決める」ということは、同時に「そうでないところ(辺地)を決める」ということでもある。つまり、インフラの集約を考える場合は、辺地への次善策が不可欠である。後述の集落移転も、そのような次善策の選択肢のひとつである。

    潜在力の温存については、具体例で説明したほうがわかりやすい。例えば、水田が維持できない場合、放牧によって草地として維持することを考えてはどうか。草地にしておけば、いざというとき、すみやかに水田に戻すことができる1)。これが潜在力の温存である。拠点集落における集約的な民俗知の保全も温存の一種である。

    3.生活再建のための集落移転

    (1)集落移転

    農村の集落がまとまって引っ越すことを「集落移転」という。集落移転の主な目的には、(1)ダムや空港などの建設、(2)防災、(3)生活再建がある。この報告では、(3)のための集落移転を取り上げる。ただし、(2)と(3)のための移転も含む。生活が困難な山間の過疎集落が、近くの平地(まち)に移転することが多い。当然、強制ではない。

    (2)集落移転の歴史

    1970年代に多数実施されたが、「道路整備によって、辺地は解消される」と考えられるようになると、急速に衰退した2)。過疎地域集落等整備事業による集落移転は、平成に入ってから、わずか4件である。

    (3)集落移転の評価

    集落移転は、実際に移転した住民から、高い評価を受けている(図−1)。約20年前に移転した住民の一人は、「今振り返ってみると、若かったから(もとの場所で)がんばることができたのであり、連れてきてもらってよかった」、「以前からの仲間がいるから心強い」と高く評価している4)

    図−1
    ↑図−1

    (4)なぜ高い評価を受けているのか

    このような高い評価を理解するためには、過疎集落(特に雪国)の厳しい現実を知る必要がある。「自家用車が利用できない」、「通院の頻度が高くなる」という二つの悪条件が重なると、高齢者は、ぽつりぽつりと都市の息子の家や施設に向かうことになる。このような散発的な離村によって、地縁が失われる。加えて、離村したほうは、土との接点も失うことが多い。息子の家に向かった場合、その家族に歓迎されるとは限らない。なお、寄る辺のない高齢者は、そのまま置き去りにされる可能性がある。

    このような現実と比較すれば、集落移転という選択肢は決して最悪ではない。ふるさとに近い平地で、地縁や土との接点を失うことなく、安心して生活できる(移転先に家庭菜園を確保する)。置き去りもない。加えて、後継者が戻ってくることもある5)。国からの補助制度(過疎地域集落再編整備事業)も整備されている。

    (5)未来のある集落移転に向けて

    技術面からみれば、集落移転は難しいものではない。ただし、全員が納得して移転すること(合意形成)が何よりも重要である。誇りを再建して、内部の力で意思を固めることが求められる。また、「戸建て・持ち家」以外の選択肢を準備して、経済的に無理をさせないことも重要である。福祉施設と一体化した集合住宅といった選択肢も積極的に検討すべきであろう。

    また、離村によって、「ふるさとを捨てた」という罪悪感が生じる場合がある。それを緩和するためにも、跡地は、なるべく美しく保つべきである。図−2は、中越大震災を機会に移転した小千谷市十二平地区の跡地である。雰囲気はとても明るい。なお、なりゆきまかせの場合、廃屋が目立ち、暗い雰囲気になることが多い。

    図−2
    ↑図−2

    (6)都市計画との連携

    コンパクトシティーの時代にあっては、移転先も安泰とは限らない。都市計画と連携して、広域的に土地利用の将来像を描くことが求められる。

    (7)補足説明

    「集落が移転すると、森林が荒廃して、下流で大洪水が発生する」という意見をよく聞くが、実際のところ、森林の洪水緩和機能は、ほとんど低下しない6)

    「集落移転により、農家の収入がなくなる」という意見も聞くが、ほとんどの場合、農業は赤字であり、大きな問題にはならない。ただし、自給用農作物が減少することで、食費が増大する可能性はある。その点は配慮が求められる。

    謝辞: 共同研究会「撤退の農村計画」(http://tettai.jp/)のメンバーの皆様から多大なるご協力を受けた。深くお礼申し上げる次第である。

    (注)

    1) 有田博之(2005):ウシの放牧が持つ耕作放棄田の管理機能と土地利用.農業土木学会論文集,235,51-58.
    2) 前川英城(2010):歴史に学ぶ集落移転の評価と課題(林直樹・齋藤晋編),『撤退の農村計画―過疎地域からはじまる戦略的再編』).学芸出版社,京都,pp.89-95.
    3) 総務省自治行政局過疎対策室(2001):『過疎地域等における集落再編成の新たなあり方に関する調査報告書』.
    4) 筆者らの調査(2008年)より。1989年,鹿児島県阿久根市本之牟礼地区の7戸が約11km離れた倉津団地に集団で移転した(過疎地域集落再編整備事業)。
    5) 筆者らの調査(2010年)より。1993年,秋田県湯沢市雨外地区の4戸すべてが約6km離れた菅生地区に集団で移転した。
    6) 林直樹(2012):『土地利用の変化が農林業の多面的機能に与える影響(電力中央研究所報告 研究報告:Y11020)』,電力中央研究所,千代田区.





パスワードを忘れた方や、
ご記憶のパスワードでログインできない方は、 共同研究会情報管理担当の 齋藤までご連絡ください。
メールは です。

書籍『撤退の農村計画』の 意見交換のページをご覧になりたい方は、 このページの右側にある「書籍について(書籍の著者と読者のみ)」を クリックしてください。