撤退の農村計画 > 記事 : 林直樹(2013):農山村の持続可能開発:林業の再配置(日本建築学会地球環境委員会,『地域におけるカーボンニュートラル化と持続可能社会への道筋』).pp.25-26(2013年度日本建築学会大会(北海道)地球環境部門パネルディスカッション資料)
  • 林直樹(2013):農山村の持続可能開発:林業の再配置(日本建築学会地球環境委員会,『地域におけるカーボンニュートラル化と持続可能社会への道筋』).pp.25-26(2013年度日本建築学会大会(北海道)地球環境部門パネルディスカッション資料)

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    以下、本文。

    1.ねらい

    木材自体は成長の過程で二酸化炭素を吸収するため,燃料として利用しても大気中の二酸化炭素は増加しない。木材を燃料として利用すれば,その分,化石燃料の使用量(二酸化炭素の排出量)が削減されることになる。

    天然林と異なり,人工林では計画的に高品質な木材を収穫することができる。「資材」として利用した後,燃料として利用すれば,二酸化炭素の排出を大きく削減することができる。

    しかし,国全体の人口が減少するなか,現在の拡散したインフラを維持することは非常に難しい。林業に対する直接的な補助も減少するであろう。急傾斜地(奥地)の林業は,早晩,完全に撤退すると思われる。

    わたしは「二酸化炭素の排出削減」と「国全体の人口の減少」の両方に対応した林業の戦略的再配置について考えている。急傾斜地(奥地)の人工林を天然林に戻しながら,今後,耕作放棄が激増すると思われる中山間農業地域(以下,中山間地域)の田畑の一部を人工林に変更すること(図1)を提案したい(人工林全体の面積を維持する)。田畑であれば道路も整備されているため,高性能林業機械の導入も比較的容易である。

    図1
    ↑図1

    ここでは次の三つの疑問に答えたい。(1)急傾斜地の林業が完全撤退することで失われる「二酸化炭素の排出削減」は,どの程度なのか。もしも,それが無視できるほど小さいなら,林業が中山間地域の田畑に進出する意味はない。(2)中山間地域の田畑で「林業の撤退分」を受け入れることは可能なのか(面積の比較)。(3)田畑の森林化に伴う悪影響は,どの程度なのか。(3)については,食糧不足の可能性,洪水防止機能の低下に注目する。

    2.議論に向けての試算

    (1)林業による二酸化炭素の排出削減

    人工林のなかで最も広いスギ林に注目する。植栽本数3,000本/ha,間伐本数率30%,伐期50年の場合,生産される幹材積は,759m3/ha・50年,15.2m3/ha・年と推計された1)。生材の「体積/重量」を1.2m3/t,生材の水分を54.5WB%,燃料として使用するときの水分を25WB%と仮定すると2),生産される燃料(木材)は,7.67t/ha・年となった。

    A重油の使用量が減少すると仮定して,二酸化炭素の排出削減量を推計する。木材の発熱量(HHV)を3,710kcal/kg3),A重油の排出係数(二酸化炭素換算係数)を2.9009Gg-CO2/1010kcal4)と仮定すると,削減される排出量は,8.26t-CO2/ha・年となった。なお,排出権の相場を,少し高めにみて,3,000円/t-CO2と仮定すると5),排出削減の貨幣価値は,24.8千円/ha・年となった。

    (2)傾斜別の人工林の面積

    3次グリッド単位で推計する。環境省の自然環境保全基礎調査(第5回基礎調査:植生3次メッシュデータ)を使用して,人工林のグリッドを特定する(自然度6を人工林とする)。国土数値情報の標高・傾斜度メッシュ(昭和56年,日本測地系)を使用して,グリッド単位の傾斜を求める(最大傾斜と最小傾斜の中間とする)。傾斜別の人工林の面積を表1に示す。ただし,1グリッドの面積は100haと仮定した。

    表1
    ↑表1

    3.三つの疑問への回答

    (1)失われる「二酸化炭素の排出削減」

    ハーベスタなどの使用が難しい「20度以上」6)は,急傾斜地とみてよいであろう。急傾斜地の林業が完全撤退することで失われる「二酸化炭素の排出削減」の貨幣価値は,50.9億円/年(=206千ha×24.8千円/ha・年)と推計された。少し下げて,「17.5度以上」を急傾斜地と仮定すると,250.4億円/年となった。少なくとも無視できるほどの少額とはいえない。

    (2)面積の比較

    農業地域類型別の田畑の面積を表2に示す。「20度以上」の人工林(206千ha)よりも,山間農業地域の田畑の方が広い。「17.5度以上」としても(1,010千ha),中山間地域の田畑の面積を超えることはない。

    表2
    ↑表2

    (3)田畑の森林化による悪影響

    「17.5度以上」の林業が完全撤退して,1,010千haの田畑が人工林に変化すると仮定する。森林化する田の面積は558千haとする(中山間地域の田の割合より)。

    食糧不足の可能性について考えるということであれば,水田(米)に注目すべきである。2012年の田(本地)の面積は2,329千ha,水稲の主食用作付面積は1,524千haであった7)。つまり,田の34.6%は主食の生産には使用されなかったということである。

    一方,森林化する558千haの田は,全体からみれば22.0%である。つまり,そのほかの田が健在なら,米が不足する可能性は低いと思われる。

    農地は一時的に雨水を貯留することで洪水の防止に貢献しているといわれる。あくまで試算であるが,農地が森林に置き換わると,8,067円/ha・年の洪水防止機能が失われる8)

    1,010千haの農地が森林になった場合,81.5億円/年の洪水防止機能が失われると推計された。この程度の機能低下であれば,東日本大震災前,2009年度の防災関係予算(2兆1702億円)でも対応できると思われる9)

    4.林業の戦略的再配置は可能か

    急傾斜地の人工林を天然林に戻しながら,今後,耕作放棄が激増すると思われる中山間地域の田畑の一部を人工林に変更することは可能か。「17.5度以上」の林業が完全撤退すると仮定しても,中山間地域の田畑で「林業の撤退分」を受け入れることは可能である。食糧不足の可能性と洪水防止機能の低下をみる限り,田畑の森林化に伴う悪影響も小さいと思われる。

    田畑の森林化に伴う影響について,もう少し詳しく調べる必要があるが,このような林業の戦略的再配置は,非現実的な選択肢ではない。積極的に検討する価値があると思われる。

    (注)

    1) 山口県の資料を使用したが,別の都道府県であっても大きな差異はない。地位級2(中位)のデータを採用。山口県林業指導センター『山口県スギ・ヒノキ人工林林分収穫予想表―長伐期対応版―(試験報告第17号附属資料)』2004
    2) 生材の水分は最大と最小の中間。燃料としては建築解体材チップ(水分は上限)を想定した。沢辺攻「木質燃料とは」『木質資源とことん活用読本―薪,チップ,ペレットで燃料,冷暖房,発電』(熊崎実・沢辺攻編)pp. 33-43,農山漁村文化協会,2013
    3) 森のエネルギー研究所『木質バイオマスボイラー導入指針』2012
    4) 日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット『EDMC/エネルギー・経済統計要覧(2011年版)』省エネルギーセンター,2011
    5) 朝野賢司『再生可能エネルギー政策論―買取制度の落とし穴』エネルギーフォーラム,2011
    6) 全国林業改良普及協会『豊かな森林経営実践技術ガイド』全国林業改良普及協会,2006
    7) 農林水産省『平成24年耕地及び作付面積統計』2013(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001108528)
    8) 林直樹「過疎集落の消滅による防災関連支出の増加」『H24農業農村工学会大会講演会講演要旨集』114-115,2012
    9) 内閣府『平成24年防災白書(附属資料)』
    (http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/pdf/H24_fuzokushiryou.pdf)





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