撤退の農村計画 > 記事 : 林直樹(2014):「過疎」の測定と行政サービスのコスト.H26農業農村工学会大会講演会要旨集,72-73.
  • 林直樹(2014):「過疎」の測定と行政サービスのコスト.H26農業農村工学会大会講演会要旨集,72-73.

    必ずお読みください。

    共同研究会「撤退の農村計画」では、熊本大学の学術レポジトリにならって、原則として、全文を公開しています。これは著者最終稿をもとにしたものであり、その後の発行者・出版者側のレイアウト調整・誤字脱字調整、著者の校正は入っていません。

    スライド01_02スライド03_04スライド05_06スライド07_08スライド09_10スライド11_12スライド13_14スライド15_16スライド17_18
    ↑スライド(クリックすると大きくなります)

    ↓以下、要旨。

    1. 過疎度点数開発プロジェクトとは

    将来を左右するような「過疎」とは何か。一面的な判定は過度の悲壮感や,数字不信をもたらす可能性がある。わたしたちは,将来についての建設的な議論を活発にするため,「過疎」を多面的,定量的に測定する方法の開発(過疎度点数開発プロジェクト)を進めている。今回は,その中間発表である。前半では,共同研究全体の着眼点,後半では,市町村の行政サービスのコスト予測について発表する。

    2. 将来を左右する五つの「過疎」

    (1)個々人の生活からみた「過疎」を測る

    医療機関までの最短の距離,地形,電話の有無などに注目した「辺地度点数」(1)のようなもので測定できると考えられるが,かなり古いものであり,現状をみて,作り直す必要がある。息子・娘の支援の有無にも注目すべきであろう(2)。なお,評価の際は「この先も,個々人の通院や買い物などが可能か」が重要である。

    (2)住民の共同活動からみた「過疎」を測る

    お祭りのようなものではなく,近所の助け合いが維持できるかに注目すべきである。既存の研究も少なくない。藤沢(3)は総戸数から,大野(4)は高齢者の割合から,橋詰(5)は農家戸数から,共同活動の衰退をみていると考えられる。ただし,最近は行政サービスが充実しているため,共同活動の消滅が,そのまま集落の消滅につながる可能性は低い。

    (3)帰属意識からみた「過疎」を測る

    集落や家への帰属意識が強い人は転出しにくく,転出したとしてもUターンの可能性が高いと考えられる。若い女性が消滅した集落は,そこを生れ故郷とする人(帰属意識が高い人)がいなくなるため,消滅する可能性が高くなる(齋藤(6))。墓地の有無も帰属意識に強い影響を与えていると考えられる(玉里(7))。なお,小田切(8)の「誇りの空洞化」も帰属意識の弱体化とみてよいであろう。

    (4)財政からみた「過疎」を測る

    過疎と財政の弱体化には強い関係があると考えられる。財政の健全さについては,財政力指数や実質赤字比率などによって測定できる。筆者らは,現在,過疎化に伴う財政の弱体化を予想する手法を開発している。

    (5)産業としての農林業からみた「過疎」を測る

    TPPによって状況が大きく変化する可能性があるが,農業については,耕地の面積,大消費地からの距離などによって測定できる。

    3. 市町村の行政サービスのコスト予測

    (1)方法

    市町村の扶助費以外の歳出の多くは,生活に直結した行政サービスに関する歳出である。そこで,これを行政サービスのコストとみなし,昼間人口と総面積で説明することを試みる(重回帰分析)。目的変数・説明変数の詳細は,表-1のとおりである。政令指定都市・中核市・特例市は,財政の範囲が異なるため,分析から除外する。

    表1
    ↑表-1

    (2)重回帰分析の結果

    有効ケース数は1,619(市町村)であった。重回帰分析の結果,下の式を得た。決定係数R2は0.947であった。

    数式(重回帰分析の結果)
    ↑数式(重回帰分析の結果)

    (3)今後の展開について

    前述の式と将来推計人口から,将来の市町村の行政サービスのコストを予測する。これに扶助費と歳入の予想を加え,最終的には,過疎化に伴う財政の弱体化を予想する。

    なお,日本の人口が半減した場合(すべての市町村で昼間人口が半減した場合),市町村の扶助費以外の歳出の合計は,現在の0.637倍になる。その間,生産年齢人口は,0.388倍になるため(9),生産年齢人口一人当たりの負担は1.64倍(=0.637/0.388)になる。

    謝辞:東京財団の三原岳氏から,ご助言をいただいた。記して深くお礼申し上げる次第である。

    (1)辺地に係る公共的施設の総合整備のための財政上の特別措置等に関する法律施行規則(昭和三十七年七月十八日自治省令第十四号),最終改正:平成二一年四月二四日総務省令第四六号).
    (2)山下祐介(2012):『限界集落の真実―過疎の村は消えるか?』,筑摩書房.
    (3)藤沢和(1982):集落の消滅過程と集落存続の必要戸数―農業集落に関する基礎的研究(I).農業土木学会論文集,98,42-48.
    (4)大野晃(1991):山村の高齢化と限界集落.経済,7,55-71.
    (5)橋詰登(2004):消滅集落への統計的アプローチ―農業集落の存滅と中山間地域での存続条件―.農業および園芸,79(10),1049-1056.
    (6)齋藤晋(2007):京都府下における消滅危惧集落の将来予測.農業農村工学会全国大会講演要旨集,80-81.
    (7)玉里恵美子(2009):『集落限界化を超えて―集落再生へ 高知から発信―』,ふくろう出版.
    (8)小田切徳美(2009):『農山村再生―「限界集落」問題を超えて』,岩波書店.
    (9)国立社会保障・人口問題研究所:『日本の将来推計人口(平成24年1月推計)』.出生中位・死亡中位で2010年と2082年を比較した。





パスワードを忘れた方や、
ご記憶のパスワードでログインできない方は、 共同研究会情報管理担当の 齋藤までご連絡ください。
メールは です。

書籍『撤退の農村計画』の 意見交換のページをご覧になりたい方は、 このページの右側にある「書籍について(書籍の著者と読者のみ)」を クリックしてください。