撤退の農村計画 > 記事 : 関口達也・林直樹(2015):地元意識の多様性とその傾向に関する研究―個人の概念的・空間的認識と各自の「地元」に望まない変化に着目して―.日本地理学会発表要旨集88,78.
  • 関口達也・林直樹(2015):地元意識の多様性とその傾向に関する研究―個人の概念的・空間的認識と各自の「地元」に望まない変化に着目して―.日本地理学会発表要旨集88,78.

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    共同研究会「撤退の農村計画」では、熊本大学の学術レポジトリにならって、原則として、全文を公開しています。これは著者最終稿をもとにしたものであり、その後の発行者・出版者側のレイアウト調整・誤字脱字調整、著者の校正は入っていません。

    1.はじめに

    「地元」という言葉は,日常生活の様々な場面で用いられる.例えば,「地元民」という場合,人々が現在居住する場所を指すが,「地元への就職」という場合には,各自の生まれ育った出身地域という解釈もある.ここから,人々が「地元」という言葉に抱く認識も多様であると考えられる.その多様さは,地域計画・事業における当事者設定や住民参加を促す上で,課題や問題の原因となりうる.それを避けるために各自の「地元」に関する認識の適切な理解が重要であることは,淺野(1999)においても指摘されている.

    また,地域計画・事業においては,「地元」の範囲や,そこで望まれない変化を把握することも肝要である.しかし,「地元」の概念の多様さを前提として,その様な分析をした研究はみられない.

    そこで本研究では,個人の地元意識を問う調査結果に基づいて,各自の概念的・空間的な認識や,「地元」の変化に着目し,回答者属性との関係性を明らかにする.得られた知見を「地元」を取り巻く近年の地域計画・事業策定の際の一助とすることが目的である.

    2.アンケート調査の概要

    2015 年3 月に全国の18 歳以上の男女を対象にウェブアンケートを実施し,1,033件の回答が得られた.回答者の個人属性として,性別,年齢,居住都道府県などの基本属性の他に,就職や結婚などの主要なライフイベントの履歴を質問した.また,各自の地元に関する概念的な認識を問う質問として,「地元」だと感じる場所が有する条件(複数回答可,良い思い出がある/落ち着く/快適である/その場所の一員であるという実感をもつ/ずっと住み続けたいと思う/高齢になって住みたい/誕生場所/現住場所/お墓まいりで訪れる/多くの友人・知人に会える/家族のうち多くが住んでいる/その他),地元に居住していた時期を質問した.また,空間的な認識として,各自の地元がある都道府県とその地域環境(農村・漁村/都市部/郊外部),空間的形状(特定の施設を基点に広がる/明確な基点を持たず,行政界などで区切られる),その範囲を問うた.さらに,各自の地元に望まない変化について自由記述をしてもらった.

    なお,調査では各自の利害関係等が回答に影響する可能性を考慮して,特定の事業や社会問題を前提とした質問は行っていない.

    3.分析方法とその結果・考察

    まず,地元が有する条件の11項目(その他,を除く)への回答データを数量化III類により5変数に集約した(累積寄与率61.1%).この5変数によるクラスター分析を行い,回答者の地元の概念的認識の傾向を,複合型,地域縁由型,思い出型,現住場所型,親密者存在型,誕生場所型に6分類した.複合型は11項目中6つ以上を同時選択した回答者の割合が14.1%と地域縁由型についで高かった.年齢帯別にみると,地域縁由型は50代以上の比較的高齢な回答者に多い一方,親密者存在型は40代までに多く見られた.これらの2類型は,地元の条件に関する回答傾向には類似性があるが,前者は農村・漁村,後者は郊外部において最も該当者数が多い点や,地元の条件に関する項目の同時回答性が,前者は高く後者は低い点,地域縁由型でお墓の存在を挙げる回答が特に多い点などで異なる.地域縁由型は家系や地域の一員感の要素等,各自と地域自体との関わりから地元意識が形成され,親密者存在型は,家族や友人・知人の有無など現状で個人の人間関係が地元意識を形成されると考えられる.また,現住場所型は,都市部・郊外部に多く,18歳以降から現在までの地元居住者が31.3%と多い.さらに,当該期間中に住宅購入をした割合が他の類型より高く,住宅の購入により新たな居住地で地元意識が醸成される可能性を示唆している.

    また,地元に望まない変化の分析として,自由記述内での頻出単語に着目し,地域の変化を7分類し(安心・安全面の悪化/地域の衰退/地域・自治体の消滅/開発・都市化の進行/コミュニティ・地域との縁の消滅/景観・街並みの変化/その他),前述の地元概念の類型との関係を分析した.まず,思い出型は,地域の衰退・開発や,地域コミュニティ・縁の消滅や街並み・景観変化が多く挙げられた.これらの人々が地元に抱く思い出は,人間関係や街並み等と関わりがあり,ハード面の変化によりそれが失われる事を望まないと推察される.地域縁由型も類似の傾向は見られるが,安心・安全面の悪化や,地域・自治体の消滅を望まない回答がより多く,この類型では現状の地域としての持続性がより重視されている.また,親密者存在型では,街並み・景観面の変化は低い一方,地域コミュニティ・縁の消滅を危惧する回答が多く,人間関係や自身と縁のある場所など,個々人と地域の繋がりへの変化を望んでいない.これは地域由縁型にも当てはまるが,こちらは街なみや景観の変化を望まない声も多く,地元のより多様な要素を大事にしている事が伺える点で異なる.そして現住場所型では地域の開発・衰退や安全・安心面の悪化が突出し,各自の住環境の悪化への危惧が伺えた.

    また,空間的認識として,回答者の約6割が特定施設を基点とし,自宅から10〜30分圏を地元としていた.また,約25%は行政界などで地元を捉え,その半数は市区町村を単位としていた.

    【参考文献】

    淺野敏久 1999. 地域環境問題における「地元」 - 中海干拓事業を事例として-. 環境社会学研究 5:166-182.





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